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    November 17

    私の知っているビルゲイツ、その14

    ビルゲイツは人と話をするのがとても好きです。そのスタイルもビルゲイツが一方的に喋るようなスタイルではなく、相手の話を引き出し自分の意見を述べ、一緒に考え相手が見つけた解に何か自分が協力できることはないかと提案するそんなスタイルで誰とでも会話をします。
    マイクロソフトの日本法人ができた1986年から数年の間は年間に2回から3回ほどビルゲイツは日本を訪問していました。パソコンを生産されている企業訪問や取材だけではなく、秋葉原に出かけたり、マイクロソフトの社員とあらゆる会議に出席したり、社員との懇親パーティにも参加したりして、それこそ社員の一人ひとりと会話を楽しんでいました。ある社員がビルゲイツに近づいて名前と所属部署を語ったときのことです。ビルゲイツ君は「そう、頑張ってね」なんてありきたりの対応はしません..その時はこんなパターンでした..
    ビル:「今どんな仕事をしているだい?」
    社員:「私は購買担当です。」
    ビル:「どんな購入品目を担当しているの?」
    社員:「フロッピーディスクの調達やパッケージ商品用の仕込みを担当しています。」
    ビル:「最近は、フロッピーはどこからいくらで仕入れているんだい?」
    社員:「KAOさんから、仕入れています」
    ビル:「KAOさんね、最近シアトルの調達もKAOさんから随分買っていると聞いているよ、それで1枚いくらなのかな?」
    社員:「XY円ですが..」
    ビル:「そうか、本社では沢山調達しているのでYZ円だけど、日本でXY円とはとても良い値段で仕入れているね」
    社員:「光栄です。」
    ビルゲイツ君がフロッピーを1枚いくらで仕入れているかってことを知っているだけでも、グゲっという話なのですが、本題はそこからなのでした。
    ビル:「ところで、Windowsのパッケージにはフロッピー何枚入っているんだっけ?」
    社員:「12枚です。」
    ビル:「なんだと、米国版は6枚なのになんで12枚も必要になるんだ、えーっ?何でだぁーっ」
    ビルゲイツ君、自分の感じた疑問を話しているだけなのだが、既に社員はビビリまくっているので、ちょっと私から援護射撃
    古川:「ビル、日本のフロッピーは1.44Mbではなくて1.2Mbなんだ日本語化したモジュールを含めてOS部分に8枚、漢字のフォントに2枚、カナ漢字変換とその辞書に2枚で足したら12枚になるだろう。」
    ビル:「おいおい、1.2Mbのサイズしかないことは当然知っていて質問してるんだ、漢字フォントは2Mbでカナ漢は1.5Mb足して3.5Mbの追加が何でフロッピー3枚に入らないんだ? 」
    社員:「それは、2つの開発部門の担当者からマスターディスクとしてそれぞれ2枚ずつのマスターデータが納入されて、2枚が漢字フォントで、2枚がカナ漢字変換でして」
    ビル:「せっかくKAOさんからとても良い仕入れ価格をオファーしてもらっていながら、3枚で入るはずのデータをミウチの開発分担というだけで4枚追加で入れていたら100万セット出荷したらいくらの損失になると思っているんだ!!!」
    社員と私:「…」
    ビル:「それより何より、購買担当者が社外の方と厳しい値段の交渉をして成果を挙げているのに、その同じ人間が同じ厳しさで身内の開発部門に“そちらで調整して、フロッピー3枚に納めて持ってくれ”となんで交渉しないんだ???」
    社員:「それは、開発の方々は出荷まで忙しく製品レリースへ向けて頑張っておられて、一調達部門の人間が要求を出すような類の話では無いと思ったのです。」
    ビル:「それは、間違いだ!」 相当なテンションではあるのですが、まぁ罵倒するというほどのことではなかったのですが、ビルゲイツ君社員全体のパーティですから見渡せば、Windowsの開発者も、カナ漢字変換の担当者も同じ部屋にいます。
    ビル:「おーい、各担当者、ここに集合!!!」
    手には、ビール缶を抱えたままさっそくの検討会議
    ビル:「各人がプロとしての仕事をするには、購買調達担当者でも技術の人間に自分の仕事をを全うするために、社外よりさらに厳しい眼で社内の人間と交渉に当たるべし、良いな」
    社員:「うーすっ」
    ビル:「開発の人間は、良いコードを期日通りにレリースするだけではなく、そのレリース・マスターがコストにどういうインパクトを与えるか配慮すべし、良いな」
    開発:「うーすっ」
    ビル:「では、実際のアクションプランはお前たちに任せるので、ゴールは理解できたな?」
    全員:「うーすっ」 このような会話をしている時は、この会社は外資系ではなく体育会系でしょ?
    そんな話を5分と少しの間に解決すると、パーティ会場の中ではもう次の話題になっているのです。
    ビル:「ふーん、ところで君はどんな仕事をしているの? マニュアル? 翻訳のコストって1ページいくらなんだ? へぇー、フランス語やドイツ語の翻訳に比べてなんで日本語は高いのだい? 機械翻訳が使いものになる日は来ると思う?」なんて話を次の人としているのでありました。 そんなスタイルなので、マイクロソフトは開発に従事する人間だけが優遇されたりビルゲイツの関心事ではなく、全ての人間があらゆる側面で会社なりビルゲイツからプロフェッショナルに仕事をするというDNAを叩きこまれるのでありました。 入社時の面接だけではなく、そのようなテンションでそれぞれの仕事に対する誇りと自分がかけがえない仕事をしているという充足感が生まれるのでした。

    上記の会話を楽しんだ半年後、また来日する機会のあったビルゲイツ君、調達担当者の社員に遭遇した瞬間に
    ビル:「おぅ、久しぶりだね、その後フロッピーは11枚に納めることができたのかい? 」、
    担当者「はい、3ヶ月前の出荷分から実現しております。」.
    .ビル:「そうかそれは良かった、最初の3ヶ月でYZ万セットの出荷だから、KYZ万円の損失で抑えることができたのだね..その後いくらセーブできたんだっけ、ところで今月はフロッピー幾らで仕入れてるの?」

    ビル君、それ以上するとイジメだから、そこらで許してあげてちょーだい、と私はいつも思うのだけど...あのビルゲイツ君に自分のやっている仕事の中身とその成果に関心を持ってもらい、適宜な助言を貰うことを楽しんでいる社員が沢山いるのがマイクロソフト流なのです。
    きっと、会社の外から見ているとビルゲイツ君、なんにでも癇癪をおこし自分で決定したことに社員は服従しているかのごとく思っている人も沢山いるのでしょうが..ビルゲイツと共に仕事をすると、開発も営業も調達部門も社長もみんな同じ醍醐味と達成感を味わえるのでした。

    では、ふるかわでした

    Comments (7)

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    井口耕二 a.k.a. Buckeye wrote:
    古川さま、

    はい、それはもう、各部署の方々は、マイクロソフト内部だけでなく、末端の翻訳者を含め、自分に与えられた条件の中でベストの仕事をしようとされてきたと思います。そして、費用対効果という観点では、かなりの成果が挙がったとも思います。一方、できあがったものがどうかというと、マニュアルやUIにウェブなどでも揶揄される訳があるなど、必ずしも満足できるものではない……じゃあ、どうすればいいのかというと、ご承知のことだとは思いますが、一筋縄でいかないものがあるわけです。特に英語と日本語は言語としてかなり異なるので、欧州言語間のようなわけにいきません。

    今回の書籍の訳をお褒めいただきましたが、そのような訳になった理由を一言で表せば、「マニュアル翻訳の方針と反対の方針を貫いたから」とも書けるのです。マニュアルでは、同じ原文には同じ訳文をあててコストダウンをはかります。これに対し私は、再利用性がなるべく低い訳文にする、を基本にしています。

    この方針で翻訳すれば格段に可読性があがるのですが、同時にコストもあがります(手間がかかるという意味でもできる人が少ないという意味でも)。マニュアルにそこまではかけられないのも道理です。

    私は翻訳者コミュニティのサイト運営もしているので、どうしたらいいかなどをよく考えるのですが、正直、出口が見えません。難しいですね。

    というわけで、私でお役に立てるかどうかはわかりませんが、何かありましたらお気軽にお声をおかけください。お手伝いできることがあればさせていただきますので。

    『スティーブ・ジョブズ-偶像復活』の訳について触れておられなかった件も、どうかお気になさらず。翻訳というものはセキュリティシステムと同じで、気にならないときが一番うまく行っているときなわけですから。

    また、ご謙遜されていますが、古川さんの文章力はとても高いと思います。記事をいくつか読ませていただきましたが、いずれも、さまざまな情報が伝わってくるだけでなく、思わず引き込まれて読んでしまうものばかりでした。今後、ときどき読みに来させていただこうと思います。
    Nov. 21
    Picture of Anonymous
    古川享(サム本人) wrote:
    井口さま、翻訳ビジネスとその実態をご教授頂きありがとうございます。

    マイクロソフトの製品を日本語化するにあたり、いつも議論になっていたことはプログラムコードの日本語化だけではなく、マニュアル、メニュー、ヘルプファイルの日本語化品質でした。この分野に私も個人的な思い入れが強かったのは、最初に入社した配属先がアスキー出版の月刊誌アスキー編集部であったということもありましょう。その後、初期のマイクロソフトBASICやCP/M80のマニュアル制作にも直接関わることがありました。マニュアル製本のための、TeXを用いた製版システムをUNIXとMS-DOSで運用するということにも関わりを持っておりました。

    マイクロソフトの内部でマニュアルの日本語化編集に関わりを持ってきた人間たちは永年に渡り限られた予算とコスト削減のプレッシャの中で素晴らしい成果を挙げてきたと思います。もちろん、歴史的にはその品質に本人も納得できないまま市場に提供せざるを得ないという事態にジレンマを感じてもきたことでしょう。プログラムの開発や製品の広告費などに比べるとマニュアルのコスト配分はいつも大きなプレッシャを真っ先に受け厳しい状況を強いられるということもあるようです。それが結果として、マニュアル翻訳をしている方々に厳しい仕事の条件しか提示できないという状況を生み出しているのやもしれません。

    しかしながら、マイクロソフトのマニュアルに20年以上関わりを持っている社内の人間も、仕事に対する情熱と信条に関しては、私も一目をおいてきた素晴らしい人間たちなので、機会がありましたら井口さまからも適宜、助言をいただければ幸いです。
    英語に全く自信のないまま暴走を続けてきた私でありますが、今後実務翻訳の件で個人的に井口さまにご相談を差し上げる機会もあるやもしれません。その時にあらためて貴殿のブログにて、ご依頼差し上げたく思います。宜しくお願いいたします。

    では、ふるかわでした
    P.S. この点をチャンと記述していなかたったことを恥じる次第でありますが、井口さまの『スティーブ・ジョブズ-偶像復活』一晩で一挙に読み進みながら、読み疲れることもなくひとつひとつの情景が心に染み入っていくように感じたのは、井口さまの素晴らしい翻訳の品質と丁寧な言葉の選択によるものだと思っています。いつも稚拙な文章で読み手を疲れさせてしまいそうな私の文章力、なんとかならないものでしょうか? ご教授ください。
    Nov. 20
    Picture of Anonymous
    井口耕二 a.k.a. Buckeye wrote:
    日本語への翻訳コストが高いというお話に関して、その翻訳をしている人間の側からちょっとコメントさせていただきます。

    マニュアルで比較して、日本語への翻訳はヨーロッパ言語間の翻訳の倍ほどかかると聞いていますが、それでも、翻訳者から見ると、マニュアルの和訳は料金がとても安い世界なのです。

    別の記事への投稿で書いたように、私は『スティーブ・ジョブズ-偶像復活』という書籍の訳者ですが、本業というか、仕事の大半は、企業文書の翻訳をする実務翻訳といわれるものです。実務翻訳の中で、コンピュータ関連のマニュアルは仕事量の多い大きな一分野になっています。でも、私はこの分野の仕事をしません。一番の理由はあまりに安いからです。私がふだんしている仕事の1/3かせいぜい半分にしかなりません。マニュアルだと仕事としての面白みも少ないので、安い料金でもやりたいという気にはまったくなりません。

    一方、私は、ユーザーとして翻訳されたマニュアルを読む立場にもあります。昔、VB6とVC++をいじって遊んでいたことがあるのですが(今はDelphiをメインに使っています)、VBのヘルプには泣かされました。知りたいことが解説されているらしいことはわかるのだけど、さて、それがAなのかBなのかなど肝心のところがどうしても読みとれないのです。とにかく、日本語として意味不明でした(訳者が理解できずに字面だけ訳すとよく起きる現象です)。英語版を読みたくても、英語版は付属してませんでした。VC++に付属していたWindows APIの訳はだいぶマシでしたが(たぶんこうだろうと推測ができるレベル)、同梱の英語版なら単純明快で悩まずに理解できるので、英語のほうを必ず読んでいました。結局、Windows APIは英語→日本語で一段、ダウングレードしていたわけで、VBは二段も三段も四段もダウングレードしていたのだろうと思います。

    マイクロソフトの翻訳関係で責任あるレベルの人と、とある翻訳関連イベントで並んでパネリストをしたことがあります。パネル終了後に「VBヘルプの日本語が理解できない」と言ったら「VBですか……あれは……ひどいんです」と顔をしかめられてしまいました。その方によると、最初に日本語版を作ったとき(VB4あたりらしい)、あまりにむちゃくちゃな訳が出てきて、それが翻訳メモリのベースになってしまったので、どうしても質が悪くなってしまうのだそうです。それでも、あとからかなり修正したから、私が持っているVB6では、ずいぶんと改善されているんだけど、とのことでした。

    企業としてコストをおさえる必要があるのもよくわかるのですが、それは一定レベルの質を確保した上の話であるべきです。今の翻訳料金では、できる人はマニュアル翻訳から離れていきます。翻訳者も自営業者ですから経営戦略として当然です。実際私も、力がついたらマニュアル以外への展開を考えなさいとアドバイスしています。

    機械生産ができないものの場合、いいものは高くならざるをえません。いいものを安くはありえないのです。少なくとも、現状の品質に満足できていなのにコストを削減したのでは、満足できるものが手に入るはずがありません。

    ただ、翻訳の場合、高ければいいものができてくるとは限らず、高いお金を出してもいいものが手に入らないことが多い、お金を出しても解決につながるとは限らないという問題があります。正直なところ、いい仕事をできる人が少なすぎるんです。

    総合すると、これは大事だというドキュメントはお金をかけていい翻訳者に頼むという一点豪華主義的なやり方と、コストダウンも大事だがやりすぎると自分の首を絞めかねないというバランス感覚のふたつが大事なのかなという気がします。

    いろいろと書いてきましたが、私は、おそらく、古川さんの世界とはまるで違う世界に生きているはずで、反対側から見たらこうなるというお話をお耳に入れるのも一興かというだけで、他意はありません。万一、お気に障る点がありましたら申し訳ありません。

    余談ながら、実は書籍の翻訳もお金にはあまりなりません。マニュアルの翻訳よりも悪いことが多いほどです。ただ、書籍には、古川さんが「ジョブズの右腕として、世界初のエバンジェリストと呼ばれた男」におけるコメントで書かれているように、「紙の書籍の持つ説得力とメディアとしての価値」があるから、必ずしもお金にならなくてもやろうかという気になるわけです。
    Nov. 20
    Picture of Anonymous
    M wrote:
    先日、日経を見てこのブログのことを知りました。以来、楽しく読ませて頂いております。私は、会社経営に興味があり、その視点から大変興味深く読んでいます。ビルゲイツは、天才プログラマーでありながら、経営の手腕もすごいのですね。むしろ、経営の天才なのでは。今日の話や、先日の予算どりでのやりとりの話から、経営の基本というものを再認識させられました。商品企画・開発などの派手なことでなく、コスト意識の大切さを思い知らされますね。フロッピーの話にしても、言われてみると当たり前のことなのだけれど、常日頃からコスト意識がないとそういう発想はできませんね。時間があるときに、過去のものも読んでいますが(ゲイツねた以外も)、色々勉強になります。それでは、また。
    Nov. 18
    Picture of Anonymous
    杉森 wrote:
    そんなビルゲイツ氏のサイン入り記念切手もついてる
    Windows20周年記念パッケージですが
    日本独自の企画なんですね。レプリカCDやパッケージ
    のペーパークラフトなんてアメリカ人では思いつかない
    企画かもしれません。

    ところでiTunesの問題ですが、ID3タグの問題の
    かもしれません、古川さんの状況がどれに該当するかわ
    わかりませんが、詳細設定の”ID3タグの変換”で
    修正可能な場合もあるようです。
    また、ID3タグの編集ソフトでテキストのエンコードを
    変更することで修正可能になる場合もあるようです。
    Nov. 18
    Picture of Anonymous
    森川 wrote:
    すみません、URLの訂正です。
    パートナーカンファレンスのURLを掲載すべきところを日本の受賞パートナー企業紹介URLを掲載してしまいました。昨日の模様が出ていましたので、こちらに読み替えていただければと思います。
    http://enterprise.watch.impress.co.jp/cda/topic/2005/11/17/6627.html
    Nov. 17
    Picture of Anonymous
    森川 wrote:
    ビルゲイツ氏のマイクロソフト流質問のつぶてもすごそうですが、今週来日されているスティーブ バルマー氏もすごいですね。久しぶりに講演(http://www.microsoft.com/japan/partner/program/award/ や http://www.event-registration.jp/events/msc05/ )で拝見しました。
    「Thank you! Thank you!」の並々ならぬ連呼で日本のみなさんに大変感謝されているのがはっきりと分かるのですが、他のスピーカーの方々よりも語勢がすごいので、古川さんが書かれているように、「外資系というよりも体育会系」という表現がピッタリの講演でした。
    Nov. 17

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