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11月17日

Windows Vista RC1 ドッグフードを食す、その3

Andyさま、スプライトさま、Milfeuileさま、コメントありがとうございます。頂いたコメントの中から、メイリオに対する私のブログエントリに対して、

Milfeuileさまから、「メイリオなどフォントに関しては素晴らしいアプローチ」という一方で、さんざんそのメイリオ フォントをけなしている真意はどこにあるのでしょうか? 

とのコメントを頂戴しました。私の真意は、「メイリオ フォント」をけなしているなんて気持ちは毛頭なく、むしろWindowsのフォントで初めて世間に誇れるフォントを提供する素晴らしい機会を得た..という気持ちでおります。デザイン的にも、その可読性にも、その技術(ヒンティング情報から、小さなフォントを生成した時の破綻が少ない)にも私は畏敬の念を持って河野英一さんの創作したメイリオフォントの登場を受け止めております。 詳細な背景はこちらのブログにもございます。

メイリオは、河野英一さんというタイポグラフィ分野のデザイナーの大御所、重鎮の創作になるもので、同一のフォント指定で初めて英字と和文字の混植をした時にもバランス良く表示されることを達成した初めてのフォントであります。英文字のベースラインと、日本語の字詰めの約束事が異なるために、従来は同じフォントサイズを指定しても英字が少し小さく表現されたり、英文字と和文字に跨る形で下線を引くとデコボコになったりという画面表示や印字結果を生んでいました。それ以前の問題として、和文字のフォントを指定した時には、そのフォント指定で表現される英文字のデザインはバランスの悪いもので、結局個別のフォント指定で、英文は「Arial」和文は「MS Pゴシック」という指定を組み合わせて書体指定をして体裁を整えていました。
 河野英一氏はロンドンに本拠地を置き、ロンドン地下鉄の駅名表示に使用されているフォントをデザインした、世界的に有名なタイポグラフィ(書体デザイン)のデザイナーです。同じく、英文フォントの母型提供に関わったマシュー・カーターは、かの有名なビットストリーム社の創設者で、米国のTV, 主要な雑誌・新聞、アップル、マイクロソフトにフォントを提供したフォント業界のこれまた重鎮であります。BT:ブリティッシュ・テレコムの電話帳が、河野氏+マシューカーター氏の作になるフォントに全部切り替えて印刷されたことにより、小さな文字の印刷でも可読性にすぐれ印刷ページの減少に貢献した結果、何億円にも相当する経済効果を生んだということも有名な話であります。

その2人が手を組んで制作したフォントですから、字面のバランス、特に横組みで混植した時の視認性にとても優れたフォントとなりました。格別私の気に入っているポイントは、ひらがな、カタカナのバランスで視認性を高めるために出来るだけ大きなひらがな・カタカナのグリフを提供しながら…英字、漢字とのバランスを考慮した仕上がりになっているところでしょうか。私が初めて就職した当時は月刊誌アスキーの編集部員として、毎日アスキーの本文原稿を横組み18文字/行の「ナールD」で本文を組んでいたので...それに慣れ親しんだ眼にとっても、Windowsでようやく雑誌の組版と同じレベルに到達したか、と感慨深い思いでおりました。「サム、コンピュータに何故2つ以上のフォントが必要なんだ」とビルゲイツと議論を交してから、25年近く経っていることを考えると感慨深いものがあります。

実は、このフォントを河野さんにお願いする段階で、Windowsのフォントチームは開発予算の中から、メイリオ・フォント(その当時は「明瞭」と呼んでいましたが…)のライセンスをするコストを捻出できない…ついては、ビルゲイツとの御前会議が予定されているので…古川からビルゲイツを説得して欲しい….との依頼があり…ビルゲイツの罵倒の嵐の中、私はバトルを展開!!!なんとか勝ち取った予算でVistaに組み込んだものなのです。その際、ビルゲイツは「10年前にアップルはモリサワを採用して…それに対抗できるフォントはシャケーンしかないって言っていたのにまた違うフォントに投資するのか?」私、「それは、シャケーンじゃなくて、写研なんだけどね…最近PCやMac用にアフターマーケットで出たもののやはり一書体あたりのコストは全てのOSやアプリに実装できるような条件ではないみたいだよ」

ビルゲイツ「そういうお前は、前回ヘイセイフォントが必要だと言ってそれにxxxx万円も投資しているじゃないか? 何でそれを使わないのだ?」古川:「ビル、平成フォントは官庁の基本台帳や指定伝票に必須のフォントであり、それ以外に今回は横組みでの視認性が高いフォントで、グレースケールにも対応し、卓越したヒンティング情報を持っているためにアウトラインフォント縮小していっても、フォントが崩れない、なおかつ各ポイント数で生成されたフォントのバランスが良い…そしてさらに、フォント当たりのデータ量は他のフォントに比べてコンパクトに仕上がっている。何よりも、英文・和文を同一書体で混植してもすぐれたデザインの初めてのフォントなんだぞぉ...これに投資しなくて、なにが次世代のWindowsだぁ、チャラチャラした画面ではなく、毎日読むホームページの画面の文字こそ、品質を向上させるべきだ!! と戦ったのでありました。こういう、言葉を交わしている時は、ビルゲイツはドンドン眼を吊り上げて、時にはFから始まる4文字言葉で罵倒されるのだけど..途中でひるまずに押し切らないと..一生後悔する、という気持ちで最後のご奉公をしたのであります。(実は、Vista に採用された、キヤノンのカラーマネージメントも同様なんだけど)

というわけで、メイリオの登場は私も待ちにまった赤ちゃんが誕生するという気持ちで迎え入れているわけです。そして何回かの打ち合わせで河野英一ご本人にお会いした時に、33歳の時からロンドンを本拠地に世界で活躍され大きな成果を挙げられた重鎮が、とても優しい眼でデザイン、フォントの世界を語られるのを見て惚れ惚れしたぐらいであります。、

さて、それだけの特性と産まれるまでの背景を背負ったメイリオでありますが….Windows Vistaのシステムフォントで使用され生成するフォントとなるとこれは別の議論であります。Windows98、Windows XPの開発プロセスの中で、システムフォントは75DPIのVGA(640480)、SXGA(800x600)、XGA(1024x768)、UXGA(1440x1024)、さらに1600x14000や横長のディスプレイなどで生成されるフォントはメニューや、タイトルバーに使われる際に細心の注意を払って選択されました。アウトライン・フォントから生成されるフォントではどうしても視認性やバランスが悪いので、フォントサイズが小さくなった時に自動的にドットで構成されたフォントにマッピングしなおすロジックを入れ、どのサイズのスクリーンでは何ポイントのシステムフォントは、24x24、16x16のフォントにマップされるか、その中間サイズ、さらに小さいフォントは、18x18のデータをさらにビットデータとして持つのか、携帯やPDA用にデザインされた12x12の簡略化された漢字データもライセンスするかという議論が散々交わされたのであります。というのも、いくらアウトラインフォントがあるとは言え、アウトラインフォントから生成される綺麗な文字は、パワーポイントの文字列であったり、ワープロの題字、本当の書体の実力は印刷してみないと判らない…むしろ、画面に向かって文字を入力している時の視認性を確保したフォントこそ重要であり、画面の品位を確定するのは、メニューやヘルプファイル、タイトルバーに表示されるシステム・メッセージの品質で決まる、と思っていました。MS UI ゴシックが提供されたときには、メニューや入力促進のメッセージ、ヘルプファイルなどには、このMS UIゴシックを常用し、統一を図るものと思っていました。

メイリオが提供する文章としての可読性の高さ、小さな文字を生成した時に破綻せず、あたかも「崩し字のように眼に馴染む」ということと、OSのメニューに表示されるアイコンとしての「文字」の可読性、デザインは...全く別の議論であるべきだと思います。上が現状のVista で表示されるIMEのメニューですが、Aや般という文字を毎日眺めるのでありえば、下の文字表記のようなチューニングが必要ではなかったのか?私はカリグラフィーに対する知識は何も持ち合わせていませんが、10分も時間をかけずに以下のメニューに変更は可能なわけです。

もちろん、個々のメニューやメッセージはどの部分がビットマップで構成され、どの部分は文字コードから生成されるかというシステム設計上の制約はあります。私は、Windowsのスタートボタンが「スタート」と表示されているのを昔のWindowsで眼にした時に、日本語の文字表記で「斜体」というのは簡易ワープロの悪しき慣習で、日本語表記のデザイン、編集のイロハから考えると、有り得ない...と叫んだものですが...まぁ、そんな声は全く届かず...さらに、ブライアン・イーノの作曲になるWindows98の起動メッセージを超えるものとして、坂本龍一さんにWidowsもしくはIEの起動ジングル音を作曲してもらったにも関わらず、マイクロソフトは採用せず...なんて空しい努力を継続してきたのであります..(ごめんなさい、教授...これ、坂本龍一全作品集というCDに収録されています。マイクロソフト、不採用なんてコメントと一緒に...くぅーっ)

さて、フォントに話に戻ると前述のように、メイリオは小さな文字を生成した時に視認性、可読性の高い品位のある文字を表現してはくれます。しかしながら、それをシステムフォントに利用した時に、電子メールの電の文字がどこかの国の省略文字に見えたり、右の文字と左の文字の高さが狂っているように見えたなら、開発を担当する人間は勇気を持ってフォントの開発者にヒンティング・データの微調整をお願いするか、もしくは一定以下の文字サイズをシステムフォントとして利用するときは、Windows XPと同じドットフォントにて描画するというロジックで対応するべきであったのでしょう。Windows Vistaを使い始めて感じる違和感は、Windows 3.1、Windows 98, Windows XPで目の慣れてしまった私にとっては、Vistaのメニュー上に表示される省略化された漢字が未だに目に馴染まないからなのでしょう。しかしながら、「起」「電」「享」といった漢字の表記は…今後の慣れの問題ではなく、システムの設計者の美学、デザインに対するこだわりとも思うのです。メイリオ(もしくは、MS UI ゴシック)が生成するアウトラインフォントのデータをどのポイント数まで使い、どのサイズ以下はドットフォントに頼ろうという仕様をメニューの文字に限っては、間違って選択したように私には見えるのです。

見栄えを気にした、半透明の画面や派手なアクションは人の目を引きはするでしょうが、この環境を毎日見て仕事をする人間にとっては「電子メール」の「電」文字をメニューで見るたびに滅入ってきますし、メニューやタイトルに表示される「享」の漢字を見るたびに、私の名前を「亨」と間違えて書いていることに耐えているような違和感を感じるのであります。そしてその違和感を感じる文字の数と事例は、日に日に増していく今日この頃なのでした。

これまた別件ですが...Vistaのインストールの際に表示される、使用実施契約書の書体はこれまた、上記のいずれでもない明朝系の書体です。Vistaを導入する際に最初に出会うメッセージ、それも使用実施契約書に書いてある内容を一度は慎重に読んでおこうという人間には、読むのに苦痛を強いられるようなフォントで契約書が表示されます。Vistaで提供されるフォントの素晴らしさに出会う前に、まず最初に眼にするものは...なんでこんなに汚い文字で契約書を読まなければならないの...というVistaのファースト・インプレッションは如何なものか...多分、社内でベータテストをしていた人は、契約書を端から端まで読んだことなど無いのだろうなぁ、と思った次第...

まぁ、多くの人ユーザーが契約書など読まずに「次へ」を押しているのでしょうが...
Microsoft J# 2005とサンマイクロシステムズ社との関連部分、MPEG4の使用条件に関する記述は、ジックリ読んでおかないと...また、その記述がとんでもない作文で...という話を明日にでもエントリしましょう。

では、ふるかわでした

评论 (4)

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Eiichi Kono 发表:
古川享さま

貴兄の11月17日付ブログ「Windows Vista RC1 ドックフードを食す、その3」拝読。まさしく「メイリオ」は、既に25年前から古川さんが胸に描かれてこられたデザイン・コンセプトを提唱するものだと確信しております。C&G やマシュー・カーターと共に、そのコンセプトを「目に見える形に作るグラフィックデザイナー/タイポグラファー」として、私も一端を担ったという感慨はひとしおです。

このプロジェクトのきっかけをつくったのは、Microsoft 社内でタイポグラフィに精通した人たちで構成された ARTグループ (Advanced Reading Technology Group) です。スクリーン上の可読性を向上させるソフト ClearType を実現させたのもこのグループです。ご存知のように、他の華々しく活躍している OS やマーケティングなどの主幹グループに比べると、小さくて非常に地味な存在です。彼らと共に、「スクリーン上でとにかく読みやすいフォント、特に横組の和文欧文の混植はいかにあるべきか」を探索し、作成したラフな試作品 (preメイリオ v0 ?) が、偶然にも古川さんの目に留まったのは、私たちにとって史上最大の幸運でした。古川超特急機関車の牽引力無くしては、最初からビルゲイツの「ん」も「予算」も、そう簡単には得られたものではなかったと思います。

こうして完成したメイリオ v1.0 は、通常のフォントファイルにインストールする通常のフォントとして作成されたもので、初めから OS に組込まれるつもりで作られたフォントではありません。そのメイリオ v1.0 がスクリーン上の可読性の良さを買われて中途から OS 用にまでスカウトされたのは大変うれしいことでしたが、意外にも我々作成者グループの手元から遠く引き離されてしまったのはまったく残念なことです。そのため、タイポグラフィの基本である可読性や洗練された美しさで目に心地さを与える微妙な調整もあまり施されず、荒削りな v1.0 のままで表舞台に押し出されてしまったのが現状です。当然、古川さんの厳しい批評にさらされる結果となったわけです。

メイリオ v1.0 のままでは、まだ、かなりミソもクソも一緒でドックスディナー (犬の夕飯) もいいところ。ぜひ近い将来、メイリオ v2.0 やメイリオ明朝も目差したいと願っております。どうかレドモンドの ARTグループにも、ビルゲイツにも容赦なく叱咤激励の有難いお声をお送り頂ければ幸いです。今後ともどうか宜しくご指導の程、お願い申上げます。ありがとうございます。
12 月 16 日
久内正樹发表:
> アウトライン・フォントから生成されるフォントでは...
> ...議論が散々交わされたのであります。
> 開発を担当する人間は勇気を持って...
> ...ロジックで対応するべきであったのでしょう。
 この部分は、アジア、アメリカ、どちらが主導権を持って、行われたのでしょう?
 いくら優れたエンジニアが、優れたフォントを使用したとしても、「美しさ」がわからないエンジニアが行ったのでは、意味がないのではないでしょうか。
 初めて渡米するとき、トラベラーズ チケットの署名を漢字でするように言われました。アルファベットですると筆跡をまねられるが、漢字をまねすることは出来ないから、ということでした。アメリカ主導で行われたのなら、そういうことではないでしょうか。また、中国製の服のタグに、日本の文字としては不思議な漢字をよく見ました。その国のフォントは、その国で調整するように出来なかったのでしょうか。
11 月 22 日
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よし 发表:
実際に画面に表示する方法がスピードを取るか、品質を取るかのさじ加減なのかもしれません。
有志が以下のような試みを行ってます。使ってみると分かりますが、なかなかに綺麗になるのですが表示速度が遅くなります。
11 月 18 日
久内正樹发表:
一足お先に RTM を試食しています。
どうも、RC2 以降で、グラフィクス(フォントもグラフィクスなのか?)の縮小アルゴリズムが変わっているようで、少なくともベータ2で何ともなかったアイコンが、RTM でつぶれるという事態に遭遇し、あわてています。
 
'A' については、古川さんが加工されたような感じで表示されています。また、'般'についても、存在しない線は確認していません。
11 月 17 日

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